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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)643号 判決

上告人(原告) 竹村由雄 外十二名

被上告人(被告) 青森県選挙管理委員会

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

二、理  由

本件上告理由は添付の別紙記載のとおりである。

上告理由第一点及び第二点について。

論旨は、訴外水木孫一郎が公平委員会の委員でありながら、退職しないままで本件村長選挙に立候補したのは、公職選挙法八九条に違背し、その立候補届は無効であり、そして、立候補届期間内に届出た候補者は他に訴外成田藤蔵たゞ一人であつたから、本件の場合は同法八六条四項にいわゆる「第一項及び第二項の期間内に届出のあつた候補者が二人以上ある場合」に該当しないと主張するに帰する。

公職選挙法八六条一項又は二項の届出に際し、届出にかゝる候補者が、同法八九条に違反する場合の生ずることは、勿論予想し得るところであるが、選挙法上いかように取扱うべきものであろうか。かかる場合において、同法は、このような違反の有無をいかなる機関によつて判断せしめることに定めているか、また、かかる違反によつて生ずる法律上の効果をいかように定めているかについて、考えてみなければならない。同法六八条一項二号は、同法八九条の規定により候補者となることができない者の氏名を記載した投票を無効とすることとしている。そして、同法六七条はすべて投票の効力は、開票立会人の意見を聴き、開票管理者が決定することとしている。すなわち、同法八九条違反の有無は、開票の際開票管理者が判定すべきものであり、言いかえれば、選挙長は、立候補届又は推薦届受理に際しては、同条違反を実質的に審査して届出を却下する権限を有せず、またその義務もないものと言わなければならない。もし所論のように、選挙長が届出受理に際し、実質上かかる規定違反の有無を審査する義務があるものとすれば、ひとたびこの判断を誤ることは選挙の規定に違反することとなり、かつかかる者を候補者として選挙を行うことは選挙の結果に異動を及ぼす虞のあることも明白であるから、かかる選挙は常に全部に亘つてこれを無効としなければならないこととなる。果してしからば、同法六八条においてかかる同法八九条違反者に対する投票を無効とする旨を定めた規定は、これを適用すべき余地がなくなり、全く意味をなさないものとなつてしまう。だからいやしくも同条を有意義に解するものとすれば、選挙長としては、このように八九条違反の届出があつても、これを受理し、その者を候補者として選挙を行い、その結果開票の際には、かかる者に対する投票を無効とし、従つてこれを当選者としないことが、法の本旨であると認めなければならない。それ故、原判決が、選挙長は立候補届受理に際し、八九条違反の有無について実質上審査権を有しないとしたのは結局正当である。

さて、本件において、訴外水木の立候補届が同法八九条に違反しているとしても、選挙長としては一応有効な届出として受理するが当然である。そして、その他に訴外成田藤蔵の立候補届がある以上同法八六条四項にいわゆる候補者が二人以上ある場合に該当するものであるから、この点に関する選挙長のとつた措置は違法とすべき何等の理由がない。また、法の趣旨が以上説明のとおりである以上右の違法が訴訟上争われたからと言つて、裁判所が水木の立候補届を当初に遡つて無効と判断すべきものでないことも明白である。論旨はすべて理由がない。

同第三点及第四点について。

論旨は、訴外水木は、立候補届出期間後立候補を辞退した者であるから、同法八六条四項により補充候補者となることはできないと主張するのであるが、右のように、ひとたび候補者を辞退した者が補充候補者となることを制限ないし禁止する趣旨の規定もなく、またかかる制限ないし禁止を必要とするほどの必要もなく、むしろ選挙においては補充立候補又は推薦は、なるべく自由ならしめるのがよいのである。しかのみならず、同法八六条五項では地方公共団体の長の選挙については、特に選挙の期日を延期してまで補充候補者を許しているところから見れば、法律の趣旨はなるべく同法一〇〇条による無投票当選を避ける趣旨と考えられ、本件のような補充候補者もこれを正当のものと解すべきであつて、論旨は理由がない。

以上説明のとおり論旨はすべて理由がないから、本件上告はこれを棄却することとし、民訴四〇一条、八九条、九五条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 真野毅 斎藤悠輔 岩松三郎 入江俊郎)

上告人ノ上告理由

第一点 原判決ハ

公職選挙法第八十六条第四項ニ所謂同条第一項及第二項ノ期間内ニ届出アツタ候補者ガ二人以上アル場合トハ右所定ノ期間内ニ一応形式的ニ有効ナ立候補届出トシテ当該選挙ニ於ケル選挙長ニヨリソノ立候補届出書ヲ受理サレタ候補者ガ二人以上アル場合デアツテ必ラズシモ実質的ニ有効ナ立候補届出ヲ為シタ候補者ガ二人以上アルコトヲ必要トスルモノデハナイ云々ト理由ノ説明ヲ為シタリ

然レドモ之レ明カニ法ノ解釈ヲ誤レル違法アリト謂ハザルベカラズ

抑々本件ニ於テハ訴外水木孫一郎ガ居村ノ公平委員会ノ委員ノ職ヲ辞スルコトナク昭和廿六年十月十六日立候補届出シタ事ハ当事者間ニ争ナキ処ニシテ此届出ヲ受理スルニ際シ右立候補ノ適正ナリヤ否ヤニ付テ選挙長ハ少ナクトモ(イ)被選挙権ヲ有スル者デアルコト(ロ)覚書該当者デナイコト(ハ)立候補禁止ノ公務員デナイコト(ニ)法定期間内ノ届出デアルコト(ホ)添付書類ヲ必要トスル場合ソノ添付書類ノ添付アリヤ等ヲ調査セネバナラナイノニ其調査ヲ怠リ或ハ不十分ニ之ヲ為シ又或ハ選挙長ガ誤ツテ之ヲ受理シテモ無効ノモノガ有効トナリ得ナイモノデアツテ無効ハ飽迄モ無効ナルコトハ常識上デモ法理上デモ容疑ノ余地ナイ処デアル而シテ本件ノ如ク立候補禁止ノ公務員ガ届出後適正ノ候補者トナルニハ届出期間内ニ自ラ之ヲ知リテ辞任スルカ或ハ選挙長ニ於テ之ヲ知リ補正ヲ命ゼラレ辞任スル外途ナキモノデアル事茲ニ出デザル本件水木孫一郎ノ届出ハ無効ナリト云ハザルベカラズ従テ届出期間経過後ニ於テ之ヲ知リ或ハ選挙長ノ知ル処トナリソノ注意ニ基キ公職禁止公務員ヲ辞任シタレバトテ実質上何等ノ消長ヲ来タスベキモノデハナイ何トナレバ届出期間ハ不変絶対ノモノニシテ人ニヨリテ其伸縮ヲ許スベキモノデハナイ何人モ立候補セントスル者ハソノ一定ノ法定期間内ニ有効ナル届出ヲセナケレバナラナイカラデアル然ルニ本件訴外水木孫一郎ハ法定期間内ニ適正有効ナラザル届出ヲ為シ右期間経過後ナル昭和二十六年十月二十七日ニ至リ公職禁止ノ公務員タル公平委員ノ職ヲ辞シタモノデアルカラ実質的ニ法律上有効適正ナル候補者ト認メラレナイ者デアル従テ此場合右水木孫一郎ハ法定期間内ニ公平委員ヲ辞職セズ法律上無資格ノ儘右期間ヲ経過シタルニ因リ有効適正ナル候補者トシテ残リタルハ訴外成田藤蔵唯一人ト確定シタルモノニシテ此場合猶且二人以上ノ立候補者アリトノ法的根拠ヲ認ムルニ由ナシ

原審ハ実質的ニ有効ナ立候補届出ヲ為シタ候補者二人以上アルヲ必要トシナイ例令実質的ニ無効デアツテモ一応形式的ナ立候補届出ヲ為シ選挙長ガ受理サレタ候補者ガ二人アレバヨイトノ説明ヲ為シテ居ルガ法的根拠ヲ無視シタル妄断モ甚シイト謂ハナケレバナラナイ選挙長ハ立候補ノ届出アツタ場合前記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)ノ事項ヲ調査シナケレバナラナイ職務上ノ義務アル事ハソノ職務自体ヨリ当然ニシテ多言ヲ要セザル処ナリ唯之ヲ調査シタルモ遂ニ其要件ノ欠缺ヲ発見スル事ガ出来ナイデ立候補届出ヲ受理シテモ選挙長ヲ責ムル途ハ法律上ナイト云フ迄デアツテ之ニヨツテ即チ選挙長ノ過誤ニヨツテ無効ノモノガ有効トナルベキ法意デハナク之ヲ有効トサルルニハ必ラズ特ニ法律上ノ明文ヲ要スルモノト信ズル而モ何人カラモ争ナキ場合ハイザ知ラズ本件ノ如ク裁判上ノ争ヲ醸シタル以上裁判所ハ必ラズヤ事実ノ真相ヲ究明シ実質的判断ヲ為シ実質的ニ無効ナルモノハ之ヲ法律上無効ト判断シナケレバナラナイ職務上ノ義務アルモノニシテ立法精神ヲ無視シタル原審ノ理拠ナキ独断的解釈ハ到底容認スベキニアラズ依テ破毀ヲ免レズト信ズル

第二点

原審ハ立候補届出期間経過後ニ候補者ノ内死亡者又ハ立候補者辞退者ガ生ジタ結果立候補者一人トナリ投票ノ必要ガナクナツタ場合ニ補充立候補届出(推薦届出ヲ含ム)ヲ為ス機会ヲ与ヘラレテ居リ一面現行法上立候補届出ノ受理ニ付選挙長ニ於テ実質的審査権ヲ有スルト解スベキ理拠ナイ本件ニ付テ見ルニ同年十月三十日水木孫一郎ガ立候補ヲ辞退シ公職選挙法第八十六条第四項ノ適用ヲ見ルベキ条件ガ完全ニ充足サルルニ至ツタ従テ公平委員ヲ辞任シタ水木孫一郎ノ補充立候補推薦ハ有効デアル云々ト説明シタリ

然レドモ右ハ法ヲ曲解シ其解釈ヲ誤リ且審理不尽ノ違法アリト謂ハネバナラナイ

原審ハ立候補届出受理ニ付選挙長ニ於テ実質的審査権ハナイト断ジテ居リソノ理由トシ現行法上之ヲ有スルト解スベキ理拠ガナイ妄断シテ居ルガ第一点ニ於テ申述ベタ様ニ選挙長ガ届出ヲ受理スルニ当ツテハ少クトモ前述ノ様ニ(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)ノ事項ニ付テ実質的並形式的審査権ヲ有スル事ハ其職務上当然ノ事デアツテ社会通念上余リニモ明白ナル事柄デアルカラ敢テ明文ヲ設ケナイ迄デアツテ斯カル場合法意ヲ解釈スルニハ其職務行為ト符合スル様ニ解釈スルノガ正当ナ解釈デアリ原審ノ様ニ選挙長ノ職務ノ性質ニ合ハナイ解釈ハ法ノ正当ナル解釈ト云フコトハ出来ナイト信ズル

仮ニ原審ノ云フ様ニ選挙長ニ実質的審査権ガナイガ届出ヲ受理シタ場合ハ一応二人以上ガ立候補者トナルノダトシテモ裁判上其届出ガ有効カ無効カト云フ争点トナツタ場合裁判所ハ実質上無効デアルコトガ判明シタ時ハソノ届出ハ最初カラ正規ノモノデハナイト判定シナケレバナラナイ事ハ聊カモ容疑ノ余地ハナイ然ルニ原審ハ実質上ハ無効ノ届出デアルガ選挙長ガ一旦受理シタノデアルカラ取消其他ニヨリ失効サレナイ限リ届出ハ有効デアルガ如キ見解ヲ採ツタノハ違法デアル何トナレバ例之無能ナル選挙長ノ行為ニヨツテ無効ノモノガ有効トナルトシタナラバ世ニ之レ程大ナル矛盾ガアルデアラウカ況ンヤ実質上無効ノモノハ最初カラ無効ナノデアルカラ取消其他ニヨリ失効トナルベキ謂ハレナキ事自明ノ理ナルニ於テヲヤ

右ノ如ク公職選挙法第八十六条第四項ニ所謂候補者二人以上アル場合トハ法律上有効ナル候補者二人以上ナルヲ意味スルモノニシテ実質的有効デナキ限リ法律上正規ノ届出ト云ハレナイコトハ法律通念上当然ノコトト信ズル依テ此解釈ニ反スル原審ノ見解ハ違法タルヲ免レナイ

第三点

又届出期間経過後立候補者ノ内死亡者又ハ辞退者ガアリシ時ハ補充立候補(推薦届出ヲ含ム)届出ヲ為ス機会ヲ与ヘタコトハ法規上争ナキ処ナルモ立候補辞退ニ因リ斯カル事態ヲ招来シタ当ノ責任者タル立候補者自身ガ自ラ補充立候補届出ヲ為シ得ザル事ハ立法ノ精神上洵ニ明カナル処ニシテ若シ夫レ原審ノ如ク自ラ其原因ヲ招来シタ者ニモ補充立候補ヲ認容スルモノナリトセバ其結果タルヤ脱法者ヲ容ルル事トナリ脱法反則ヲ奨励スルガ如キ観ヲ呈シ延イテハ徒ラニ法ヲ弄ブ者ヲ歓迎スル事トナルベシ法ニ此種ノ制限ナキハ立法精神上洵ニ判リ切ツテ居ルカラデアル

例ヘバ覚書該当者ガ四囲ノ状況カラ届出期間内ニ追放解除トナル事ヲ予想シ確認証ノ写ヲ偽造添付シテ一応選挙長ノ受理スル処トナリタル後右期間経過後右不正ガ暴露セラレ立候補辞退シタルニ偶々追放解除トナツタノデ補充立候補ガ出来ルトシタナラバ不正行為ヲ助長スル結果トナルベク之レ法ノ正シキ解釈ト云フヲ得ンヤ本件ハ正ニ右ト類似ノ行為ナレバ之ヲ容認スルハ違法ト謂ハザルベカラズ

原審ハ此点ニ関シ「立法ノ趣旨ニ合致スルヤ否ヤニ付テハ多少ノ疑問ヲ挾ム余地ガナイデモナイガ」ト述ベテ深ク此点ニ触レズ之レガ説明ヲ避ケ慢然ト前記ノ如ク認定シ上告人等ノ主張ヲ排斥シタルハ審理不尽ノ誹ヲ免レズ

右ノ如ク本件ニ於テ自ラ斯カル事態ヲ招来シタル訴外水木孫一郎ニ補充立候補届出ヲ為ス資格ナキ者ナレバ縦令第三者タル斎藤幸作ニ候補者ヲ推薦スル固有ノ権利アリト雖モソノ推薦タルヤ発効スルニ由ナク無効ノモノナリト謂フベシ従テ原審ノ認定ハ誤謬タルヲ免レズ依テ破毀ト信ズル

第四点

仮ニ百歩ヲ譲ツテ事態ヲ自ラ招来シタル当ノ候補者ト雖モ補充立候補出来ルトシテモソレハ法律上正当ナル候補者即チ実質的ニモ形式的ニモ有効ナル届出ヲ為シタル候補者ナルヲ要スル事ハ法ノ解釈上当然ニシテ前述ノ通リナルガ若シ之ニ反スル原審ノ解釈ヲ正当トスルナラバ添付書類タル確認証ノ写ノ偽造等不正行為ヲモ認容セザルベカラザル事トナルベク法ハ決シテ不正ヲ認メズトノ大原則ヲ紊リ破ルノ結果ヲ招来スルニ至ルベシソノ不穏当ナルヤ言ヲ俟タズ

原審ハ総テ前提ニ於テ法ノ解釈ヲ誤レル違法アリ依テ破毀ヲ免レズ

以上

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